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【2017.10.25】PPモブラーのセミナーに参加してきました


皆さまお久しぶりです。
ここのところ冴えない天候が続いてますね。
めっきり寒くなってきて本格的な冬の到来を予感させます。

さて、1ヶ月以上も間があいてしまいました当ブログですが、昨日PPモブラーのセミナーに参加してまいりましたので、その模様をお伝えいたします。
久しぶりのブログということで、盛り沢山の内容となっておりますこと、ご了承くださいませ。

まず、今回のPPモブラーセミナーですが、PPモブラー社が3代目のオーナー「キャスパー・ペダーセン」氏にバトンタッチされるとのことで、その初来日に合わせて催されたセミナーとなりました。
そこで、キャスパー氏には自社の家具作りからウェグナーとの思い出や熱い思いを語っていただきました。


まずは、ウェグナーについて。
ウェグナーの父親はトナーで靴職人として働いていました。
小さな頃から父親の工房に出入りしていたことにより、物作りの資質を開花させていったのでしょうね。
学校での勉強は不得手だったウェグナーですが、14歳の頃に作ったウェグナーの彫刻作品を見るとその技術力の高さに驚かされます。
それもそのはず、ウェグナーは生まれて間もない頃、歩くより先にハサミを手にして切り絵をしていたという逸話があるのです。
周りからは小さな子供にハサミを持たせるなんて危険だ!という意見が上がったのですが、ウェグナーの両親は「この子はハサミがどういった物か分かっているわ」といって周りの意見を一蹴します。


ウェグナーは順調に職人としての技術とキャリアを積んでいき、様々な作品を生み出すのですが、彼の名を有名にしたのは「PP501」であるということは言うまでもありません。
アメリカ大統領選挙テレビ討論会でケネディとニクソンが座っていたこの椅子は、一躍脚光を浴びます。
それにより通称「ラウンドチェア」と呼ばれていたPP501はあらたに「ザ・チェア」と呼ばれるようになり、今でも最高の椅子としての地位を保っています。

当時、ウェグナーにはよく聞かれる質問があり、それは、どうしたらこのようなデザインを生み出すことが出来るのか?といったものだそうです。
ウェグナーは、なるべくシンプルに、脚、背、アーム、座面のみで構成することを考え、不要なデザインはなるべく除いて、それらを自然に椅子の形に落とし込むことを考えたそうです。


そしてウェグナーはより人間工学に則った形状の椅子をデザインするようになります。
今では決して珍しくはありませんが、当時、医学博士との共同作業で椅子をデザインすることは 世界初の試みでした。

人が直立している状態での背骨の形状が、椅子に座った時でもより自然な状態だと考え、それを負荷なく保ち続けられるような形状の背もたれの製作に試行錯誤します。
深く座った時に、お尻が座面後方より少し突き出た状態が、背骨がより自然に近いということで、座面と背もたれの間の背面のパーツは取り除かれ、背もたれは幅と厚みがある形状が考えられました。


そこでデザインされたのが「PP502」通称「スイヴェルチェア」です。

しかしながら、スイヴェルチェアに使われている背もたれは無垢の木材を削り出して作っているため、製作にとんでもないコストが掛かってしまいます。
スイヴェルチェアの写真を見ていただくと分かりますが、アームと背の箇所はPP501と同様のフィンガージョイントで接合されていますが、中央のパーツはPP501よりも遥かに幅があります。

少し話は外れますが、通常、製材業者より購入する木材は、一般的に原木を5cm程に挽いた板状なのですが、PPモブラーはデンマーク国内およびドイツの環境保全基準を認可された提携製材業者より伐採された大木の原木(10cm〜20cm厚の板など)を優先的に入手することができます。
話を戻しまして、これにより無垢削り出しであるスイヴェルチェアの背もたれ(特に中央下部)製作を可能にできるのです。
もし木目に拘らなければ、現在の曲げ木の技術を持ってすれば、よりコストを抑えた製作も出来なくはないですが、アームと背もたれとの流麗で自然な形状と木目だけは譲れないウェグナーとPPモブラーの拘りが見てとれますね。

しかしながら、いまだにとても高価であることは変わらず、スイヴェルチェアは1脚150万円を超えます。
その後は、背もたれの幅を少しだけ小さくし、コストを抑えつつも正しい背骨の形状を保てるような椅子のデザインに尽力します。


木材のコストのお話を少しだけしました。
ここで、PPモブラーの少しだけ驚くお話をいたします。

デンマークで伐採された木材は家具として使用するのに10年ほど乾燥が必要となります。
通常はこれらを自然乾燥または乾燥機で乾燥させてから成型するのですが、PPモブラーでは乾燥させる前の水分を含んだ状態で、それぞれのパーツの形状にある程度成型します。
その後2年ほど乾燥させます。
そして晴れて2年後に、背もたれや脚部として本格的に加工がされてゆくのです。
これは、乾燥の期間を短縮させるとともに、伸縮の狂いをなるべく小さく抑える目的です。
しかし、乾燥させている2年間の間に亀裂が入ったり、大きく変形してしまったパーツは使用することができないので、時間を掛けて成型した作業は無駄となってしまいます。
それらのパーツは不要な部分を除いて切り出して別の小さなパーツへと生まれ変わります。


このように、木材は優れたマテリアルであると同時に生きている材料であるため、予測のつかない点もあります。

例えば写真にあるPP501のアーム部分をご覧ください。
アームの左右が同じ木目ですね。
これは、同じ木材からパターンを考えて切り出しているため、このように木目を揃えることができるのです。
例えば、先に切り出して2年間乾燥させておいた片方のアームにクラックがあったとします。
そうするともう片方の問題ないアームも使用することができません。
いえ、正確にはPPモブラーでは使用しません。
つまり、コストや作業を採算度返しにしても拘りを貫き通す姿勢がPPモブラーにはあります。


ウェグナー自身も驚いたPPモブラーの拘りがございます。

それは、当時「APスツーレン」社、現在ではPPモブラーが販売しているウェグナーの最高級椅子として名高い「ベアチェア」です。
APスツーレンは張地の工房のため、中のフレームは当時からPPモブラーが請け負っていました。
ウェグナーはPPモブラーがフレームを製作するにあたり品質面を確認したところ、アーム下部の仕上げに関して、生地で隠れる箇所だから、ここまで綺麗に仕上げなくても良いと言ったそうなのですが、PPモブラー初代社長アイナーは見えない箇所だからといって妥協はしたくはないと言い、ウェグナーを驚かせたそうです。
この時にウェグナーはPPモブラーを自身のデザインを製造するベストパートナーとして確信したのだそうです。

ベアチェアは今でも当時と全く同じマテリアルが使われています。
それは、磨耗が少ないヤシの繊維や馬の毛を使用しており、永く使用するという点においても優れているためです。

2003年にPPモブラーがベアチェアを復刻して以来、フレームから生地張りまで一貫してPPモブラーが製作し、縫製技術もAPスツーレン時代よりも更なる向上がはかられています。


PPモブラーの初代社長であるアイナーは、ウェグナーのことをこう語ります。

「PPモブラー社には、家具職人資格を持った優れた職人が多く働いています。しかし、今でもなおウェグナーほど優れた技術を持った職人には会ったことがない。」

この発言からわかるとおり、ウェグナーは優れたデザイナーであり、優れた家具職人であったことは言うまでもありませんが、そのウェグナーをも驚かせたPPモブラーの技術力の高さが伺いしれる逸話がございます。

ウェグナー晩年の最終的な目標として、外郭が丸く形成された大きなイージーチェアを作ることでした。
結果生み出されたのが、「サークルチェア」こと「PP130」なのですが、その製作には紆余曲折ありました。
ある時、ウェグナーはPPモブラーの工房の片隅でPP130のプロトタイプをデザインしていたのですが、そのプロトタイプではPP130の外郭素材には金属を使っていました。
当時、ウェグナーは木材で丸く形成する技術が不可能であると考え、金属での製作を進めていましたが、金属の重量が非常に重く、決して今のように軽やかな椅子とはなりませんでした。
それを見たアイナーは木材でこの形状を実現するべく持っている技術を総動員します。
そこで考えられたのが、厚さ4〜5mmの板を11枚重ね合わせ、それを機械で丸く圧着して形成する技術でした。
丸い形ということは、一枚一枚4〜5mm厚の板の長さが異なります。
内側にくる板は短く、外のレイヤーになるにしたがって微妙に長くなっており、最も外側にくる板は一番長くなるのです。
また、この木材も繋いでいる板ではなく約3m長の一枚の板と定め、頭とお尻が綺麗にくっつくように考えられているため、強度的にもデザイン的にも無駄がなく美しく仕上げることができるのです。
アイナーの考案したこの技術にさすがのウェグナーも驚き、さっそくPP130に採用したそう。

いまではより強度のある無垢の木材で丸く形成することができますが、当時では技術的に困難なことだったのですね。
それを可能とするPPモブラーとウェグナーの技術力・・・凄いです。


最後にちょっと面白いお話です。

1970年代に入り、IKEAに代表される安価な家具が台頭してくると、その波は家具業界に大きな影響を与えました。
PPモブラーも含め、高度な技術を要する手作りの家具業界は少しずつ衰退してゆきます。
しかし、ウェグナーはPPモブラーの技術力の高さを上手く活用すれば、今後も活路を見いだせると判断し、よりブランド力を付けさせるためにPPモブラーのための椅子デザインを複数発表し、さらに会社のロゴまでデザインをします。
現在でもPPモブラーのロゴとして使われているPとPが背中合わせにデザインされているものがそれですね。

さて、PPモブラーはそんな厳しい時代を乗り越えて、ウェグナーが付けたブランド力が実を結んだ過去最高の大型注文がありました。
コペンハーゲンとロンドンを結ぶDFDSフェリー用の椅子として「PP52」840脚の注文を受けたのです。
大型ロットのため少し安くしてくれとの要求でしたが、アイナーはこれだけの数の椅子をまとめて製作すると職人は凄く疲れるため、逆に職人の給与を上げなければならないとの考えから、決して大きな割引はしませんでした。
1脚100円ほど割引したらしいですが(笑)。

少しだけ話が外れます。
ある日、PPモブラーに1脚のPP52が持ち込まれます。
持ち込んだ男性は座面を張り替えてほしいとの依頼でしたが、PPモブラーの職人が調べたところ、この1脚はDFDSフェリーに納入した椅子の1脚だったのです。

840脚のPP52は、フェリー用とのことで、常に揺られる船内であることを考え、背もたれの厚みを通常のPP52よりも少しだけ厚く頑丈にして作りました。
それによって、このPP52がフェリー用のPP52の1脚であると判断できたのです。

840脚全てフェリー用に納入したはずなので、外部に流通することがないため不審に思った職人は、何故この椅子をあなたが持っているのかを男性に尋ねたそうです。
すると、男性は浜辺で拾ったのだと打ち明けました。

実は、その数日前に錨を降ろして停泊していたフェリーでしたが、思いがけない高波に船内は大揺れでPP52以外の家具はほとんど損壊してしまうほどの大きな被害を受けました。
その際に1脚だけPP52が紛失してしまったのだと、後にフェリー担当者は発言しています。
そのPP52が流れ着いて浜辺に打ち上げられた物を、その男性は拾ったのですね!!
なんとも面白い偶然だと判断したアイナーは、無料で座面を張り替える代わりに、男性に浜辺で拾った状態の写真を撮らせて欲しいと要望して撮った写真が上の写真です。

ちなみに、座面は長く海水に浸かっていたため張り替えが必要であったものの、フレームにガタツキはなく、ここでもPPモブラーの椅子の耐久性が証明された出来事でしたね。

PP52は現在でも就航路線を増やしたコペンハーゲンからのDFDSフェリーに使われており、安価な家具路線に一石を投じる優れた椅子として、とても話題になったそうです。


PPモブラーとウェグナーのお話は如何でしたか?
新しく3代目オーナーとなるキャスパー氏に、自身がオーナーになってから変わることはありますか?と聞いてみました。
すると「過去から受け継いできた技術を継承して高品質な家具を製作することに変わりはありません。しかし、現在の技術の革新により大幅な耐久性の向上がはかれる箇所があれば、細かく仕様の調整はしていきたい。でもその判断が難しいんだ」と仰っていました。

先人の残したデザインを損なうことなく、過去の技術を継承し、常に新しい技術にも着目する。
それは決して簡単なことではなく、今後も熟慮を重ねるべきだと語るキャスパー氏の話を聞くと、このような情熱を持った人が3代も続くとは、ウェグナーは本当に良いパートナー(工房)と巡り会えたのだとしみじみ感じます。

いつの時代も愛されるウェグナーの家具の真髄を再認識したセミナーでした♪
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